戦略ストーリー2
戦略ストーリー2
農業においても戦略ストーリーは当てはまる。
上記図は、私が、日本和牛のライバルであるオーストラリアWAGYUのパイオニア、デイヴィッド・ブラックモアの農業ビジネスを分析したものである。ブラックモアは、日本の農家と同様に家族経営で日本和牛と同じ遺伝子を持つオーストラリアWAGYUを生産し、世界で高い競争力を維持している。
ブラックモアのビジネスを楠木の戦略ストーリーの視点から分析した。
ブラックモアの打ち手が、利益を生み出すシュートとどのようにつながっているかを考察する。
1 「コスト優位」のシュートにつながるパス
「受胎サービスセンターに委託」及び「エコフィーディングに基づく飼育証明」の2つのパスで支えられる。エコフィーディング(オーストラリアで商標登録)とは、動物の福祉、環境管理、製品の安全、安心の保証を目指す飼育法である。
2 プレミアム価格の維持のシュートにつながるパス
「ブラックモアラベルの付与(”ブラックモアWAGYU”をオーストラリアで商標登録)」「ファーストライン製品の部位別販売」「健康、環境に良い」の3つのパスを背後に持ち、その背後に「トレーサビリティの仕組みに基づく生産指導」など複数のパスで支えられる。
3 「市場シェアの向上」のシュートにつながるパス
「プレミアム価格の維持」「遺伝子輸出」などから支えられる。
4 「顧客シェア向上」のシュートにつながるパス
「トレーサビリティの仕組みに基づく生産指導」及び「飼料提供」の2つのパスに支えられ、その背後も「受胎サービスによる遺伝子証明」など複数のパスで支えられている。
以上のように、打ち手のつながりが因果関係の蓋然性が高く、強いストーリーといえる。
【評価】
ブラックモアの戦略ストーリーは、「強さ」「太さ」「長さ」において優れた戦略ストーリーの要件を満たしている。その結果、競合がたとえ打ち手の一部を模倣したとしても戦略ストーリー全体までは模倣することができず、ブラックモアのWAGYUビジネスは競争力を維持し続けることになる。
【注目点】
ブラックモアの打ち手は、実は日本の農業においても存在する。むしろ、遺伝子や肥育技術など個々の打ち手は日本の農業の方が優れている。それなのに何故ブラックモアのWAGYUビジネスは、競争力を維持しているのに対し、日本の農業はそれに及ばないのか。それは戦略ストーリーの有無です。